2008年12月07日

REPORT 7 宗教心か、あるいは清廉なる献身か

 祖母のことを思い起こします。
 僕は俗に言うおじいちゃん、おばあちゃん子で二人からは実の子のように可愛がられてきました。ですから、今でも父の日、母の日には二人にも何かしらのプレゼントを贈るようにしています。
 祖母に関して思い出されるのは、駅弁で食べるカツ丼です。僕がまだ小さい頃はまだ近視は珍しかったのですが、僕はどういうわけか小学校低学年の頃から目が悪く、メガネをかけるかどうかの瀬戸際でした。幼い孫がメガネをかけるのは不憫だということで、祖母は様々な眼科に僕を連れて行き、いろいろな先生の紹介を頼りに、遂には視力を回復させるとテレビや新聞でも取り上げられたことのある仙台の眼科医の元にたどり着いたのでした。薬の点眼による治療という、簡単な方法で視力は確かに0.6から最高で1.2まで回復しました。ただし、月に一回鈍行で一時間半以上もかけて仙台に通わなければならず、また毎日3度かかさず点眼しなければならず、ということで面倒になり、僕は治療を放棄しました。それでも、小学校6年生までメガネをかけずに済んだのは祖母のおかげだったに違いありません。毎月、一度の仙台行きの中で、僕が一番楽しみだったのが、電車の中で祖母と食べるカツ丼でした。世の中になぜこんな美味しい物があるのだろうと感動できたのは、仙台という都会で、しかも電車の中で食べるという高揚もあってのことでしょうが、今でもたまにカツ丼を食べるときはその時の記憶が甦るのか、何か違った旨味が混じるような気がします。
 高校や大学受験の時はもちろんのこと、僕が無謀にも小説家になると宣言したときも、祖母は僕の願いがかないますようにとお守りを買ってきてくれました。宗教心どころか、神棚や仏壇に手を合わせる習慣すらなかった傲慢この上ない当時の僕は、祖母の気持ちを考えることもなく、こう冷たく言い放っていたように記憶しています。「神や仏が願いをかなえるんじゃない、頼れるのは自分自身の力のみなんだ」と。そして、きっとお守りはいつも受け取らなかったのだと思います。あるいは、受け取ったとしても鼻で笑って結局は放置していたか。今も根本的に変わりはありませんが、当時の僕は宗教に対して全くもって寛容ではありませんでした。
 けれども、最近、初めて人のためにお守りを買うという、以前からの僕を知る人にとっては有り得ないような行動をとるにつれ、自然と祖母の気持ちがわかるようになりました。そして、今はなんてひどいことをしてきたんだと思うようになりました。誰かのためにお守りという行為は、宗教とか、そういう思想的な話ではまるでないのです。ただその人のことを想うという気持ちが、形となってそう表れたということに過ぎない。それは僕の語感における「宗教」に必ず混じっていた、宗教を通じての何らかの強い欲求という意味合いではなく、むしろ欲求とはまるで方向性の違った、その人を想っての清廉なる献身なのではないでしょうか。
 幸いなことに、祖母は相変わらず元気です。僕の実家のある集落は、95歳越えがあたりまえの、恐ろしく平均寿命が長い地域なので、あと少なくとも20年は孝行できます。ただ、いきなり僕の態度が変わったら、逆に何かがあったのではないかと心配するでしょうから、まずは実家に帰ったときには仏壇と神棚に手を合わせるという、そんな程度のことから贖罪を始めようと考えています。 
posted by 発起人 at 16:54| Comment(0) | TrackBack(0) | 日記

REPORT 6 地下一階の煌びやかな世界

 おとといの事です。その日は池袋でM出版社のMさんと食事をしました。四月に初めて会うようになって、これで何度目でしょうか。「密会」と称して、月に1度くらいはご飯をご一緒して頂いております(笑)。相当に本を読まれている方であり、また本の趣味も僕ととても合います。彼女との出会いがなければ、”SIGRE−HIKO”の構想を実現しさせようなどとは本気では考えなかったかも知れません。いつもまくし立てるように話す、僕の話を温かく聞いていただき、また夜遅くのくだらい電話にも付き合っていただき、本当に感謝しております。いつもは面と向かってなかなか言えないので、この場を借りて。
 さて、おとといは池袋のジュンク堂で待ち合わせたのですが、ホームページ作成関連やその他の本を買う必要があって、二人で数フロアを回っていました。それで最後にMさんが今度の仕事でどうしても読まなければならない本がある、ということで連れて行かれたのが、ジュンク堂の地下一階、一番奥まったところにあるキラキラの場所でした。いわゆるボーイズ・ラブと呼ばれる分野のコミックなどが集められたその一角には、あたりまえの事ですが、男など僕一人しかいませんでした。予想に反して結構かわいい感じの若い女の子たちが静かに本を選んでいました。小さなカルチャーショックです。あ、こんな世界があるんだと、未だに田舎者が抜けきれない僕は、都会はすごいななどと感心してしまいました。
 Mさんの会社の傘下には、そういった種類の書籍を扱う会社もあり、そこで新しい文庫のレーベルを立ち上げる企画があって、営業部所属ながらMさんもそれに協力することになり、「BL(ボーイズ・ラブ)を読む女の子たちがターゲットになるか調べなければならないのよね」との話でした。「あ、そういえば、今度の集まりにくるよ」と、口を滑らせてしまった僕。「なんですって」と目の色を変えて喰らいついてくるMさん。滑ってしまったものは仕方がない。「話が聞けるか、きいてみるよ」と請け負ってしまったのでした。BLを読んでいるということは、女性の方たちはあまり公にしたくないらしく、やばかったかな、と反省しましたが、話の流れ上仕方ないと自分を慰めつつ、腹が極限に空いていたので、ご飯を食べにいきました。
 ここではいつもどおり、僕の話でほとんどの時間が費やされたのでしたが、次にMさんに連れて行かれた妖しげな喫茶店(隣では風俗関係の子が店の関係者らしき人と移籍について話していました)では、今までとは立場が一変しました。「BLとは彼女たちにとってファンタジーなのだ、決してエロではない」との論調でMさんが熱く語り出したのでした。僕もほとんど知らない世界のことだったので、興味深く話を聞かせていただきました。Mさんが熱く語り、僕が静かに聞いて時折質問するという構図は今まであまりなかったはずです。あ、この方はこういう分野になるとこうまで活き活きするんだ、と妙に感心しました。
 期待を裏切ったらまずいと思い、Mさんと別れた後、すぐにその子に電話をして、「BLについて話を聞きたいそうなんだけど、協力してくれる?」と聞くと、困った感じで笑いながらも「いいですよ」ということだったので、一安心。ほんと、よかった。
 それにしても、今度の会はいったいどういう方向に進んでしまうのでしょうか(笑)。みんなそれぞれの思惑があって参加することになりそうです。その場が必要とされることは、僕にとってもうれしい限りです。
 実に、面白いことになってきました。
posted by 発起人 at 12:38| Comment(0) | TrackBack(0) | 日記